イヴの宝箱

  1. 01. 冬の森から

    ■裸木(はだかぎ)の枝駆け抜ける栗鼠の背に
         負われて流るる時の速さよ

    ■秋去りて冬迎へむと競ひ合ひ
         衣を替える森かがやきて

    ■風渡り冬訪れて森の色
         競ひて替えるときぞ可惜(あたら)し

    ■音のない世界に戸惑ひ何思う
         老いたる犬に問ふ冬の朝

    ■穢れなき瞳に映る森の中
         栗鼠を見つめるわれ共にあり

    ■冬の森寂しかろうと裸木(はだかぎ)に
         巣箱のブローチ鳥を呼ぶかも

    ■裸木 (はだかぎ) に恥じらいおして
         眠りつついのち抱くは冬芽なるかな

    ■枯葉積むテラスの椅子の温もりも
         消えて主待つ長き冬かな

    ■白き峰孤高のひとの想いさえ
         隔てて屹立せし冬の朝

    ■風に舞い乾いた音立て肩寄せる
         色さえ温き枯葉山かも

    ■裸木(らぼく)とてうちにいのちを宿すれば
         樹肌も温きからまつの森

    ■冬に咲くコスモス花よ海風に
         異国の薫りをききてあととむ

    ■裸木(はだかぎ)の森に木枯らし吹き荒び
         枯葉に紛れて舞う風の花

    ■森の底白く煙りぬ風の中
         栗鼠の走りて訪れを待つ

    ■木枯らしに耳毛なびかせ木の実食む
         栗鼠の背朝陽に紅く染まるや

    ■厳冬の澄みたる空に月ひとり
         闇夜の底を照らして笑ふ

    ■木の実食む栗鼠おびやかす鳥の影
         冬来たりなばいのち競ふや

    ■厳寒の地にて生きむと木の実抱き
         急ぎ埋(うず)める栗鼠ぞいとしや

    ■黄泉という国への入り口そこかしこ
         見えぬは仮のこの世ばかりか

    ■吹き荒ぶ雪の向こうに見え隠れ
         やがては埋もれむ業の足跡

    ■暮れなずむ冬空の下の森の底
         白く光りて夜を迎えむ

    ■軽やかに跳ぶよに走る栗鼠の子の
         姿も清し雪積もる朝

    ■悠々と顔色かへずに我が森を
         足跡残してキツネ過ぎりて

    ■雪掻きて木の実隠せば嬉々として
         周囲見渡す栗鼠ぞいとしき

    ■初春の白き森にもめでたさの
         輝きあふるるありがたき朝

    ■凍てし雪踏めば乾いた音を立て
         森の冷気を震わせる朝

    ■白無垢の浅間の姫を包む青
         澄みてすがしき新しき朝

    ■冬の空晴れ渡りたるその色の
         悲しいほどに美しき青

    ■雪被り色を失くした森の中
         ひっそり飾るはシジュウカラかな

    ■雪を蹴り枝から枝へと渡る栗鼠
         こぼした笑みのいと温きかな

    ■朝陽浴びきらきら輝く樹氷にも
         色を添えむと鳥訪れぬ

    ■漆黒の鋭き嘴木に立てて
         紅き帽子を揺らすアカゲラ

    ■生きのびるためとはいえど栗鼠の実を
         もってゆくなと野鳥に告げむ

    ■尾長なる体を運びて森の中
         冬のヒヨドリ枯れ木に咲かむ

    ■野に生きるいのちをつなぐけもの道
         ついてくるなと声ぞ聞こゆる

    ■アカゲラや寄り添ふ番のむつまじき
         姿に森もぽっと赤らむ

    ■野に生きるいのちを思う心すら
         忘れて木を伐る人ぞ哀しき

    ■森の中雪見て笑ふイヌの目に
         映りしヒトは何を思ふや

    ■逆立ちたヒガラの冠羽に威厳見て
         腕白小僧も頭(こうべ)を垂れむ

    ■雪すらも融けるかシメの求愛に
         頷き返すカワラヒワかな

    ■追いかけて追いかけられてたわむれる
         栗鼠に見ゆるは夫婦善哉

    ■優しげな瞳に春を映しつつ
         北への渡りを待つアトリかな

  2. 02. 深まる秋を詠む

    深まる秋を詠む。。。

    ■コサージュの色映ろへば白き肌
         紅(くれない)にほふ喝采の中

    ■秋霖(しゅうりん)に葉陰の緑も濡れ落ちて
         一夜一夜に錦繍を縫ふ

    ■三叉路にたちた神庫 (ほくら) にこうべ垂れ
         野アザミ頬を染めて祈らむ

    ■風渡りコスモスのその無心なる
         笑みぞこぼるる秋の野辺かな

    ■秋桜の咲き乱るるは秋風の
         ほのかに吹かむ野辺の道の端

    ■山の端の緑に浮かぶコスモスの
         色目に染みる秋のあけぼの

    ■暮れなずむ深草(ふかくさ)の野に輝ける
         星と見紛うコスモスの花

    ■道の辺を薄紅の色に染め上げて
         春を装ふ秋桜(あきざくら)かな

    ■よもに吹く秋風に散るコスモスの
         色を惜しみて蝶舞いにけり

    ■寝すぎたか蝉が今頃殻をぬぐ
         急ぐなゆっくり命を燃やせ

    ■深き森霧を纏いて木霊らの
         音なき声で何をか語るや

    ■野分け吹き紫の帆に風はらみ
         深草(みくさ)に沈む釣舟草かな

    ■秋風の音色に合わせてタップ踏む
         毛糸の帽子も粋な野アザミ

    ■孤高なる厳しき薫りに吹く風も
         戸惑い隠せぬ桔梗の花かな

    ■野にありてぼんぼり灯す秋明菊
         秋の長夜をいざない招くや

    ■十五夜の月の明かりに照らされて
         野ウサギ踊ればススキが笑う

    ■葉の先に舞い降りた秋振りもせず
         移ろう色に染むカエデかな

    ■誰も見ぬ空に十六夜う月あかり
         かなしからむと闇を覆うや

    ■ふと見れば木漏れ日の色も黄昏て
         秋の深さをしばしあはれぶ

    ■山栗のほのかな甘みを好むのは
         熊とて同じ遭遇注意

    ■萩の葉に肌寒き風吹くなへに
         紅葉(もみじ)深まり山を染めぬる

    ■縫うように湖畔を染める秋の風
         錦繍の絵に心とろめく

    ■野にありて見返られずとも微笑を
         浮かべしヒメジョンあわれなるかな

    ■飄々と長き手足を泳がせて
         シャルウイダンスと誘うカマキリ

    ■風流人好む好まぬさておいて
         爪隠してこそ偉人たるかな

    ■我が森の栗鼠のほおばる日を思い
         あけび絡めるときぞ楽しき

    ■翅休めふたたび渡りに舞い上がる
         浅葱の姿に我手を合わす

    ■色なせる光の裏のその影に
         恨みを隠してトリカブト咲く

    ■水面割り稲妻呼びて空を舞ひ
         龍神睨む現世ぞ悲しや

    ■滝の音に心の襞も洗われて
         惑い消えぬる静寂の中

    ■山肌を轟き落ちる大滝の
         しぶきぞ吾の心洗ひぬ

    ■鬼の居ぬあいだに石積む幼子の
         背を見て地蔵よ何を語るか

    ■目に映る錦繍の色に和むると
         キジバト笑ふ声ぞ聞きたし

    ■色づいたもみじ葉の陰胡桃抱く
         栗鼠の姿に笑みぞこぼるる

    ■森の樹の枝駆け抜ける栗鼠の背に
         何処へゆくのかいつか尋ねむ

    ■錦繍を纏いた栗鼠のやさしげな
         姿にしばし時を忘れぬ

    ■秋の中もみじ葉の色濃き薄き
         木漏れ日までも染め上げるかも

    ■母栗鼠と別れて独り生きる子の
         野の宿命ぞいとあはれなり

    ■薄き濃き紫の実に平安の
         雅みゆるやムラサキシキブ

    ■森の海樹木の揺れの波立てば
         風ぞ渡りて道を残さむ

    ■黄金の色に染まりて樹間縫う
         栗鼠追う我も風をおぼゆる

    ■独りゆく道の険しさ知るゆえに
         石橋叩きて生く栗鼠いとしや

    ■晩秋の森を彩る精霊の
         宿りて紅きいろはもみじか

  3. 03. 夏から秋へ

    夏から秋へ。。。

    ■そよ風と光と睦む北欧の
    薔薇の香りぞ海を渡りぬ

    ■若き日の君の瞳を紅(くれない)に
    染めた蔓薔薇時に散るらむ

    ■穢れなき瞳にいのちの火を燃やす
    子栗鼠を抱く森の温もり

    ■梢から梢へ渡る栗鼠たちの
    姿に吾も風を覚えむ

    ■母栗鼠と別れてひとり生きる子の
    行く末思いじっと背を追う

    ■夏の陽も包みて己の色に染め
    吾に微笑む妖精の薔薇

    ■絵筆もち天使が空から舞い降りて
    染め上げたるは薔薇のひと房

    ■涼しげに小さく震える野の花よ
    声なき声で何を語らむ

    ■浅間山うちに秘めたる激情を
    押し隠するは貴婦人の笑み

    ■年月の川はいずこへ夏休み
    少女の目になる幼なじみや

    ■恋心綾も漂う花びらの
    色に乙女の想いぞ見ゆる

    ■そよ風に恋して染めた頬の色
    こぼれて咲きしニンフの薔薇かな

    ■夏の日に命を朱に染め燃やさむと
    生まれし花の歌ぞ聞こゆる

    ■風の音のげに歌声にも聞こゆるは
    命燃やする夏の朱の花

    ■母の蔭寄り添い覗く子なれど
    いつしか咲かむ母を背負いて

    ■淡き色萼につけしは紫陽花の
    花なきあとに余韻残せし

    ■白薔薇のにごりにしまぬ無垢の色
    心の陰を映し見ゆるか

    ■緑なる葉守りの神の言葉なき
    想いぞあふるる聖なる森かな

    ■色も香もあはれと思う絞り花
    絵画の中より咲きにけらしも

    ■黒斑山荒き岩肌屹立し
    雄々しく守るは浅間の姫君

    ■彼の地にて目にした薔薇の麗しき
    時流るるも我忘れめや

    ■花か実か問わば問えよと夏椿
    いのちぞつなぐ玉響の秋

    ■曙の光を受けてうたかたの
    笑み開きたる東雲の草

    ■花の色濃いも薄いもこきまぜて
    野を飾りたる夏の錦か

    ■色と香も荒みて果てる時の世の
    君の御影を薔薇に見立てむ

    ■茜空花もひとつに霞みつつ
    雅の野に見ゆ黄昏どきかな

    ■夏立ちて盛りを移す野の花よ
    残りて吾に何を語るや

    ■野の花の移りにけりなおみなごの
    心模様をしかと読めとや

    ■彼の岸の住み家をあとに迎え火の
    灯り訪ねて御魂集いぬ

    ■蝉の声薄れて秋の虫の音に
    季節の移ろい知りてあはれぶ

    ■空の青樹木の緑と花の香を
    抱きて絵となる夏の庭かな

    ■ゆく夏の情けぞ見ゆる庭隅や
    ほのぼの薫る一輪の花

    ■二枚石巌となりて雨境
    こゆる思いを呑んで鳴きぬる

    ■雨上がり葉擦れの音に聞こゆるは
    深まる秋の息づかいかな

    ■やがてくる別れを知りてか薄れゆく
    においを恋うる栗鼠ぞ哀しき

    ■翳りさえ我が身にくみすとほくそ笑む
    深紅の薔薇に闇ぞ浮かびぬ

    ■この森の理とふてひと夏の
    いのちを歌う蝉ぞ哀しき

    ■森の中緑の衣を纏いつつ
    栗鼠ぞ光になりて風追う

    ■風吹けば抱きた秋が舞い落ちて
    緑薄れる長月の森

    ■風吹けば契りありてや萩の花
    秋の訪れひそやかに告ぐ

    ■夏の園天使の形見とおぼゆ花
    古の地へと吾をいざなう

    ■背高の黄色の花咲く麒麟草
    長月の野のバレリーナたち

  4. 04. 春から夏へ

    春から夏へ。。。

    ■色直し萌ゆる緑に恥じらいて
    霞みを纏う春紅葉(もみじ)かな

    ■うたかたの命といえど燃やすれば
    笑みぞこぼるるスミレ草かな

    ■花びらと見紛う白の羽根やすめ
    いのちをつなぐ春のてふてふ

    ■風吹けば光こぼれる葉の陰に
    過ぎゆく春の名残りを惜しむや

    ■誰も見ぬ路傍の脇で背を伸ばし
    たんぽぽ花の笑みぞ眩しき

    ■木漏れ日の薄き光を集めては
    葉影も眩しき山吹の花

    ■石楠花の白の向こうに見え隠れ
    山の緑ぞいと温きかな

    ■梅雨の入り咲き急ぐなよヤマツツジ
    飛沫の中に赤を散らして

    ■色変えて花をつなげるツツジ属
    道ゆく人にその名を問わむ

    ■ゆくひとに何をか語らむツメ草の
    恥じらいて染める頬ぞゆかしき

    ■せせらぎの色を纏いてゆく山女魚
    うぐいす見惚れて歌を忘れぬ

    ■クサノオウ手折るなかれと顔背く
    そのいじらしさに吾手をおろさむ

    ■蛍火と見紛うほどのクサノオウ
    ひとり静かに何をか想う

    ■おだまきの淡き紅色ふるわせて
    春の名残りを惜しみ楽しむ

    ■辷りゆく時間と競いて色変える
    森のみどりに我を忘れむ

    ■蜜もとめ森にさまよう蝶の翅
    広げて咲かせる一輪の花

    ■ゆかしきは蝶の想いを止めむとて
    笑み浮かべたるたんぽぽの花

    ■蔓性の女王と呼ばれしクレマチス
    薔薇へのつなぎに色をなせるか

    ■星屑の青と見紛うヴェロニカの
    花を連ねて空へ届けむ

    ■雨だれに頷き返すバラの花
    ガラスの向こうに何を認めむ

    ■葉陰さえ濡らして落ちる水無月の
    雨に緑の色ぞうつりぬ

    ■ホオの葉もクリに寄り添い陰をなし
    小さき仲間を招きいざなう

    ■豹紋の薄きその翅ふるわせて
    花のいのちを惜しむてふてふ

    ■行き止まり振り返り見ればヒキガエル
    フラッシュ浴びて恥じらい目を伏す

    ■母栗鼠になりたる命愛しくて
    足忍ばせて胡桃置きつる

    ■装いも化粧もいらぬ野の薔薇の
    白さに童も手折りを忘れむ

    ■儚げなシャンパン色の薔薇の香に
    子供の頃見た夢が漂ふ

    ■薔薇の花抱きしめたるは儚げな
    時に重ねむ我が青春の夢

    ■待ちわびて少女のように頬そめる
    薔薇のつぼみよゆるゆると咲け

    ■湧き出でる靄に融け入る花々の
    色身に纏う精霊の庭

    ■精霊の衣(きぬ)擦れ合えば七色の
    光降りたる霧深き森

    ■朝靄のヴェールを纏いて隠れても
    赤ぞこぼれる大輪の薔薇

    ■想いびと来るか来ないかおみなごの
    祈りを包みて薔薇ぞ微笑む

    ■緑なる風にそよぐは木漏れ日の
    粒と見紛う雛の臼壷

    ■水を出で夕べになればいのちの火
    燃やして果てるほたるぞ哀しき

    ■妖精の手摘みを待ちて薔薇の花
    淡きその色褪せることなしや

    ■悠久のときを見つめてハルニレの
    木肌に人のぬくもり宿して

    ■長雨に森の隠れ家ほとぶれて
    栗鼠の親子の尾も濡れぼそる

    ■親栗鼠と別れてひとり生きる森
    野生の性(さが)よ逞しくあれ

    ■梅雨明けの空の青さに負けまいと
    薔薇誇らしげに頭をあげむ

    ■薄絹の衣纏いて薔薇一輪
    薫りて輝く梅雨空の下

    ■窓開けて流れいるその温(あたたか)き
    風に聞こえる地球の叫び

    ■天の川森を見下ろし悠久の
    夢をつなげと星を降らせむ

    ■夏の日の野を飾らむと次々に
    紅咲き染むる蔓薔薇の妙

    ■若き日の君の瞳を紅(くれない)に
    染めた蔓薔薇時に散るらむ

  5. 05. 春を詠じて

    春を詠じて。。。

    ■風の中立ちて見ゆるは刻々と
          色かえ流るる光なす影

    ■暮れなずむ山の裾野に滲みゆく
          緑の色にいのち思わん

    ■薄紅の花影清らな空間に
          青きさえずり色をなすかも

    ■しだれなる枝を揺らして吹く風も
          光も染まるさくら色かな

    ■風立てばしだれの枝にからむ陽も
          こぼれて滲むさくら色かな


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